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概要

NNA_kanpasar_vol.25

16 KANPASAR「幸せの国」と呼ばれるブータン。標高2,000メートルを超える空の玄関口パロから首都ティンプーに向かう道中には青々とした棚田が広がる。時間軸が揺らぐほどのんびりとした農業国だ。人口は約76万人で、農業に従事している人の割合は約6割に上る。経済活動をしている労働力は全人口の6割強で、いまだに自給自足で暮らす国民も多い。日本は1964年からブータンの農業近代化などを支援している。この農業支援の起点となった人物が、国際協力機構(JICA)の前身である海外技術協力事業団(OTCA)から派遣された、故・西岡京治氏。80年に「最高に優れた人」という意味を持つダショーの称号と、その象徴の赤いスカーフが国王から授与された。街中で「ダショー・ニシオカ」と言えば誰もが知っているほどだ。農業国が多い欧米の機関からも有機農法などを教えにくる人がいる。現地で出会ったドイツの大学生は「ブータン農業の可能性を探るプロジェクトで来た」と話していた。そんなブータンは無農薬農法が主流だ。隣国のインドには、リンゴやミカン、ジャガイモ、ショウガなどを輸出する。今後はより付加価値の高い果物などをインドの健康志向が高い層向けに輸出することに商機がありそうだ。農業に必要な水は、ヒマラヤ山脈から流れ込む。主な水力発電所は全国に5カ所あり、発電容量は計1,500メガワット(MW)。これは国のほぼ100%の発電能力だ。全世帯の電化計画は、送電網の拡大でほぼ目標を達成している。一方、課題は大きく分けて3つある。1つ目はインドへの貿易依存度が高いことだ。輸入が全体の約80%、輸出が85%に達する。インド経済が失速すれば、多大な影響を受ける構図になっている。2つ目は、他国に比べて小国であるため、大量生産・大量消費のシステムには不向きな点だ。首都ティンプーですら平地が少なく、地方への道中は山肌を切り開いて作られた道が多い。こうした道路インフラの脆弱(ぜいじゃく)性は、商品などの輸送に大きな影響を与えている。3つ目は政府が外資に対する規制緩和に慎重なこと。ツェリン・トブゲイ首相は「必要以上に国を開くと、自国の文化保護が難しくなる。ブータンのような小国では、方針転換による影響が大きい」と警戒心が強い。文・写真 NNA編集局 竹内悠市場開拓の鍵はインド?農業が盛んな「幸せの国」ブータンNEXTアジア 現地ルポ③キラを着た女性。街には民族衣装を着た人が多いシェアリー・スクエア首都ティンプーの中心部から車で約10分。ショッピングモールの「シェアリー・スクエア」が見えてくる。地上5階ほどの施設内にはエスカレーターが完備されているが、平日のせいか、人はまばら。空き店舗も目立つ。入居テナントで多いのは、女性向けファッション。ノースリーブのワンピースがマネキンに飾られている。商業施設内の店舗は個人商店が目立ち、外資系ではイタリアのアパレルブランド「ベネトン」があるだけだった。しかし、これらの店が繁盛しているとは言い難い。ブータンではチベット系住民の民族衣装が正装とされ、女性は「キラ」、男性は「ゴ」が着用されている。公の場では民族衣装の着用が国民に義務付けられ、街中でも洋服と民族衣装が5割ずつといった印象だ。街中でノースリーブを着て歩いている人は見かけたことがない。商業施設にはスーパーはなく、食料品や日用品の購入には市場や数十の個人商店が集まった建物に買い出しに行く。乳製品からシャンプーまで並べられている商品はインドブランドが多い。こうした光景は、同じくインドとの貿易依存度が高いネパールの商店にも似ている。ファッションは保守的消費トレンドティンプー中国インド1ニュルタム=1.53円(9月8日時点)