NNAカンパサール

アジア経済を視る April, 2020, No.63

【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”

テイクオフ ─新型コロナでもたくましく生きる市民たち─

中国・青島市にある極地海洋公園は運営を再開。新型コロナウイルスで外出を控えていた家族連れらが久しぶりに訪れた=3月27日(新華社)

中国

週末の上海は、不要不急の外出を避けていた人たちも徐々に街に繰り出すようになり、日常生活に戻り始めている。飲食店や美容室では感染を防ぐために利用人数が制限されたり、座席に一定の間隔を空けることが求められたりしているものの、客足は少しずつ回復しているようだ。

春節(旧正月)以来、ずっと休業していた行きつけのネイルサロンからも営業を再開すると連絡がきた。ネイルと高額の美容施術を抱き合わせたセットを掲げ、「セット利用の人から優先予約します」。需要があると見込んでかアルコール消毒液の販売も始めたようで、メッセージには新たに取得したと思われる同製品の営業許可証の写真付き。「皆様のために消毒液を準備してきました。数量限定!」とアピールも欠かさない。

新型のウイルスだろうが何だろうが商機に変えてしまう。中国人の商魂のたくましさに感心させられた。(佳)


タイ

バンコクの屋台が並ぶ一帯、女性らでごった返す店があった。背伸びしてのぞくと、そこにはハンカチで作られた色とりどりのマスクが。品定めする女性らの熱気に負け、思わず後ずさりした。

新型肺炎の感染拡大に伴い、バンコクではマスクの入手が難しくなっている。しかもマスクは使い捨てのため、すぐ消耗し、ごみにもなる。そこで注目されつつあるのが、ハンカチのマスク。お気に入りの1枚を見つけた女性の姿は、どこかうれしそうだった。

ふと、戦時中の日本で、木炭を使って髪にパーマをかけていた女性らの話を思い出した。当時、木炭は貴重な資源。非国民として非難されることもあったが、女性らは美しくなることを諦めなかったという。深刻さは違えど、どんな逆境の中でも人生を楽しもうとする女性の姿勢は、時代や場所にかかわらず不変なのだろう。(志)


シンガポール

街に活気が戻りつつある。週末に繁華街オーチャードを訪れたが、そこそこにぎわっていた。入店待ちの行列ができているブランドショップも見掛けた。新型コロナウイルスの国内感染は続いているが、自宅でじっとしているのに飽き始めた人が多いと地元メディアが報じていた。

ただ通りを歩いていて足りないと感じたのは観光客だ。シンガポール政府の統計によると、昨年は年間2千万人近くが訪れ、うち日本、中国、韓国で3割近くを占めていた。日本を除く2カ国からの入国が原則的に禁止されていることの影響は大きい。世界的なウイルスの流行で渡航者が大幅に減少していることも追い打ちをかけているようだ。

観光客を相手にしている商売は業績が大幅に悪化しており、中には休業を余儀なくされているところもあるという。事態が早く収束し、街が以前の人出でにぎわうことを願うばかりだ。(樹)


韓国

日本政府が新型コロナウイルスの感染症対策として、3月9日以降の韓国からの入国制限を強化すると発表したことで、今春から日本の大学に通うことになっている多くの韓国人学生が予定を前倒して、慌てて玄界灘を渡った。

立命館大学に合格したキム君(仮名)もその1人。日本に着いても不動産会社との契約上、アパートにはすぐに入居できない。「1週間のホテル暮らしを強いられる」と、予想外の出費に顔をしかめる。

それでもキム君はまだラッキーな方だ。今回の措置で日本に行きそびれてしまった留学生も多く、訪日時期のめどが立たない中、不安な時期を過ごすことになる。

韓国の感染者数は7,000人以上に達するが、それは保健当局がアグレッシブに検査を行っている結果でもある。韓国に住む日本人として、日本政府の対応にどこか性急さを感じるのは当方だけではないだろう。(碩)


台湾

「北海道に行けない今こそ、北海岸へ!」。新型肺炎の影響で減った観光客を取り戻そうと、新北市がこんな触れ込みで観光客を呼び込んでいる。

雪の降らない台湾で、北海道は旅行先として根強い人気がある。ただ今年は同地が渡航警戒レベル(4段階で評価)で上から2番目の「オレンジ(不必要な渡航は避ける)」に設定され、多くの台湾人が北海道行きの旅行をキャンセルした。

北海岸は台湾北部の海岸線で、春にはトレッキングを、夏にはサーフィンが楽しめるという。新北市は名産であるサツマイモ「金山甘藷」を、「北海道の『白い恋人』のようなお土産にしたい」と意気込む。

北海道出身の自分からすると、名前以外は似ても似つかない場所に思えるが、旅行先としては魅力的だ。清明節の帰国が怪しくなってきた今、ここで過ごすのもありかもしれないと思い始めている。(妹)


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